2016年01月24日

神武建国の戦略的思想を持つべし

荒谷卓
私が現職自衛官として、防衛庁防衛局戦略研究室に勤務している折、米国国防省ネット アセスメント会議(米国、2001 年 10 月)で報告するために「統一朝鮮が地域安全保障に 及ぼす影響」と言う戦略論文をまとめた。出国直前に人事異動で陸幕防衛班に戻ることに なったので、発表は後任者に任せた。彼によると、この報告は、会議主催者である米国防 省総合評価局長アンドリュー・マーシャル氏から絶賛されたと言う。
この論文は、ネットアセスメント手法を取り入れた戦略論文で、朝鮮半島が統一した場 合、客観的に可能性のある全ての戦略環境を比較分析し、それを総合評価して、我が国に とってもっとも望ましい極東アジアの戦略環境は何かと言うことを整理したものであった。
このように、戦略を立案するということは、現状にとらわれず将来のあらゆる可能性の 中から、国家が主体的に目指すべき戦略ビジョンを確立することである。

この職も含め、防衛戦略(戦略)、防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画(政策構想)、 年度防衛計画(政策)等に関ってきたが、このような戦略から政策までを一貫性を持って 立案するための思考要領は、PPBS(Planning, Programing, Budget System)と言われる。 現状にとらわれない目指すべき長期戦略ビジョンを確立し、その実現を図るために現状 を分析して政策の方向性を中期構想として定め、具体的な政策を予算の裏づけのもとに年度毎に実行していくのだ。このような思考プロセスで進められる政策を、戦略的発想をもった政策と言う。

ところで、防衛戦略を立案するに当たって困ったことがある。前提となる国家戦略が無 いとうことだ。国家戦略とは、目指すべき国内外の総合的戦略環境のビジョンをいう。本 来、国家戦略があって防衛戦略が決まる。
平成25年12月に、「国防の基本方針について」(昭和32年)に代わって「国家安全保障 戦略」と言うものが定められた。名前からして、ようやく戦略が確立されたかの印象を受け るかもしれない。しかし、内容は、「戦後の平和国家としての歩みを引き続き堅持し、国際 社会の平和と安定及び反映の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく」ことだそうだ。
具体的目標では、日米同盟の強化と、(米国の提唱する)グローバルな国際秩序の強化に 主導的役割を果たすことだとしている。
これでは、自立した戦略の立てようが無い。我が国の戦略は米国にまかせ、米国のお役 に立つように頑張るというのだ。

他方、これほど米国に依存しておきながら、次期米国大統領候補者の政策スピーチの内 容に日本国民が無関心なのはどうしたことだろうか。日本のメディアも、大統領候補者達が何を言っているのかを伝えない。それはおそらく、米国にとって如何に日本の存在価値が小さいかがわかってしまうからではないか。 今回の米国大統領候補者のスピーチの中に日本と言う言葉はほとんど出てこない。出たかと思えば、共和党のトランプ氏のように「日本の車を買うのをやめさせる」という内容だ。 私が米留した時に確認したが、米国の太平洋地域の最大の同盟パートナーは親中のオーストラリアだ。日米同盟のランキングは、サウジとかカザフスタンと同等程度。

戦略をもたないまま合理的な判断をするとどうなるか。強い者には逆らわない、と言う ことになる。これは国を滅ぼす。
幕末の徳川幕府の判断のようなものだ。これでは国が亡ぶとして維新が起きた。日本の 近代化に際し、明治天皇が御示しになったのは、日本の道義的戦略思考を保持した政治だ った。しかし、実態は、国益を優先させる合理的思考が優先し、大きな方向性を誤った。
例えば、日英同盟だ。未だに日英同盟を結んでいたときはよかった等と馬鹿なことを言う輩がいるが、第1次世界大戦中、日本が日英同盟に基づきドイツに宣戦し派兵している最中の 1917 年 3 月に、大英帝国会議で配布された「日英関係に関する覚書」には、「日本 人は狂信的な愛国心、国家的侵略性、個人的残忍性を有し偽りに満ちており、日本は本質 的に侵略的な国家である。(中略)資源の面から考えれば、日本の政治目的は大英帝国の部 分的消滅をともなうものであり、日英間に協力すべき共通の目的は存在しない」と記され ている。
英国の戦略に上手く利用され、日露戦争に踏み切り、戦争経費を英米からの借り入れ資 金でなんとか乗り切ったものの、その後の金準備や外貨準備の大部分を英国に上手く利用 され、国家の資産を上手く活用できないまま経済的に窮地に追い込まれたことが、満州事 変そして大東亜戦争を引き起こす原因の一つとなった経緯をよく考えなくてはならない。
英国のインド植民地化を認め民族自決という道義戦略を捨て、当面する政治状況への対 処を合理的に判断したつもりでも、その先の展望については単なる希望、根拠の無い英国 への信頼感だけに頼っていた。
当時のアングロサクソン連合のような発想も日本人独特の考えだ。米国は、1920年 代に戦争計画・カラーコード計画のうちレッド計画と言う対英戦争計画も準備し、レッド・ オレンジ計画つまり対英日の二正面計画さえ策定していた。
戦後は、いよいよ戦略的思考すら放棄して現代に至っている。戦略的発想も無いまま、 米国経済と当面の為替相場の安定のために、当時と同じ自由に使えない米ドル・米国債の 異常なる外貨準備が蓄積されている。そして何より、根拠の無いまま、単なる希望だけで 米国に頼っている。

現在、米国の提唱する戦略思想は、個人の自由と競争を正当化する法秩序による世界統 治だ。競争による勝者と敗者が確定する世界を望ましい戦略環境として描いているわけだ。

競争に使う手段は情報・メディア力つまりプロパガンダ力、経済力、軍事力、政治力等自由だ。同盟関係は、自国の競争力を高める手段に過ぎない。 これに対して日本文化の特徴は「和」、つまり利他と共生共助共栄を基調とする。米国が提唱する価値基準とは正反対だ。米国の軍事戦略に従って自衛隊を海外に派遣することが、どうすれば日本の文化価値に沿う国際社会の構築に繋がるのだ。貿易と経済の自由競争を促進する TPP に参加することが、どうすれば君民一体の伝統的「和」の社会を保全することに繋がるのだ。
「米国が決めたんだから、日本はそうするしかないでしょう」と言ってはばからない、元外務官僚の言動に乗って、独自の戦略ビジョンも無いまま、とりあえず上手く対処していけば日本文化を守れると考えるのは、根拠も展望も無い希望に過ぎない。
神武建国の御詔勅には、明確に日本の道義的戦略ビジョンが歌われている。『八紘を掩ひて宇と為む』という戦略ビジョンだ。
『八紘を掩ひて宇と為む』を戦略理念として掲げ、共生共助共栄が可能な社会の設計図(戦略環境)を描き、その実現のための方向性(政策構想)を定め、今何をすればよいのか(政策 立案)を考えることを始めることが日本の道義的戦略思考に繋がる。
また、こうした作業に実際にとりかかれば、現憲法、現法律、現政策の何が正しくて何が正しくないかが良く見えてくる。
上杉鷹山の言うように『為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり』だ。政府が為さないのなら民間で為せばよい。妙な合理的判断で政府におもねっていては、 道を誤る。現状に囚われない戦略的気概を持つべし。
紀元節(建国記念日)を復活させたのは、まさに、そうした国民活動を再開するための日 本精神の復興が目的なのではないか。
posted by RBRA at 22:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 幹事 荒谷卓

2016年01月23日

憲法に守られた平和」という幻想

27年7月23日 産経新聞「直球&曲球」掲載

葛城奈海
『自衛隊・防衛問題に関する世論調査』(今年1月内閣府)をめくっていて、「もし日本が外国から侵略された場合は?」というページではたと手が止まった。「一切抵抗しない(侵略した外国の指示に服従し、協力する)」が、5・1%もいるではないか!

想像力の欠如もここまで来ると恐ろしい。奴隷でもいいというなら、その尊厳のなさにがくぜんとするが、おそらくは意識下に無抵抗なら命は保証されるという子供じみた甘えがあるのではないか。しかし、強制収容、拷問、虐殺…そうした戦慄すべき事実は、今この瞬間も世界各地で繰り返されている。「一切抵抗しない」方には、自分や自分の大切な存在ののど元に刃(やいば)が迫る場面を真摯(しんし)に想像していただきたいと切に思う。

回答を男女別で見ると、女性は6・6%と男性3・3%の倍であった。これで思い出したのが、自衛官募集担当者の「安保法制論議の影響で、志願者が激減している」という言葉だ。母親たちが「危ないから」と止めるらしい。

国会での自衛官の危険が増す云々(うんぬん)の議論も、むなしさを禁じ得ない。そもそも事に臨んでは危険を顧みず国民を守ると宣誓しているのが自衛官だ。だからこそ尊いのだ。より重く論じられるべきはむしろ国民の安全であるはずだ。
多くの国民が長く「憲法に守られた平和」という幻想に陥ってきた中、その欺瞞(ぎまん)を骨身にしみて感じてきたのが拉致被害者のご家族であろう。

予備役ブルーリボンの会が先般開催したシンポジウム「拉致被害者救出と自衛隊」で、あるご家族が「自衛隊が動くことで隊員さんの命がかかると思うと申し訳ない。その一方で、一国民としては『平和』な日本で拉致がまかり通るのはなぜと感じる」と思いを吐露された。これに対し荒谷卓(あらや・たかし)・元陸自特殊作戦群長は「1人助けるのに仮に自衛官10人が死んだとしても、それは作戦と技量が未熟なだけなので、気にされないように」と答えた。また、アンケートには、自衛官の妻から「お役に立てるなら、家族は喜んで送り出します」ともあった。前述の無抵抗派や母親らに聞かせたい。
posted by RBRA at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 広報部会長 葛城奈海

2016年01月08日

安保法制論議、拉致被害者救出には一言もない

27年6月25日 産経新聞「直球&曲球」掲載

 「少なくとも数名は帰ってくるのでは」と、日本中の期待を集めた日朝ストックホルム合意から丸1年がたった。結論は周知の通り、政府認定の拉致被害者、特定失踪者の誰ひとりとして帰国は実現していない。再調査のための特別調査委員会を設置したことを評価して、日本は制裁の一部を解除したが、またしても北朝鮮に弄された感は否めない。「最後のチャンス」と、すがるような思いで推移を注視していたご家族の落胆はいかばかりであろう。
 ここへきて、そのご家族の傷に塩をすり込むように思えてならないのが、安保法制論議だ。「切れ目のない法整備」を謳い、11もの法案を並べながら、拉致被害者救出に関しては与党も野党も一言もない。在外邦人の保護については当該国の同意が前提となっているが、北朝鮮が自衛隊による拉致被害者救出に同意するわけもない。
 かつて安倍晋三首相は、「いざとなったら米国に頼むしかない」と語ったが、筆者が予備役ブルーリボンの会で活動を共にしている自衛隊の特殊部隊OBは、「対米協力と同じくらいの熱意を持って、自衛隊による拉致被害者救出を可能とする法的根拠を示せば、自衛隊はその準備に鋭意取り組むだろう」という。にもかかわらず自国民を守ることをいつまでも米国頼みにしていては、独立した国家として情けないではないか。現行法で自衛隊を使えないというなら、今こそ法整備の好機であろう。議員のブルーリボンバッジは、まやかしか。
 当会では北朝鮮工作員侵入・拉致シミュレーションを実施したことがあり、筆者はその被害者役を務めた。言葉巧みに注意を逸らされた隙に引き倒され、手足を縛られ、猿轡をはめられ、麻袋をかぶせられた。全身砂だらけになり口の中には血の味がした。何の罪もない国民がある日突然このようにして連れ去られ、以後何十年も意に反した人生を異国で送っているという事実には、どう向き合うのか。
 これからの危機に備えることはもちろん大事だが、既に現存する安全保障問題をこそ、まずは直視してもらいたいものである。
posted by RBRA at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 広報部会長 葛城奈海

「八紘為宇」という建国の理念

27年4月11日 産経新聞「直球&曲球」掲載

先月16日の参院予算委員会で自民党の三原じゅん子議員は「八紘一宇」について「日本が建国以来、大切にしてきた価値観」と述べた。日頃、「八紘一宇」のルーツである「八紘為宇」こそ日本が取り戻すべき理念だと考えていた私からすれば、まさに我が意を得たりの発言であった。
かくいう私もこれを「好戦的なナショナリストのスローガン」だと思い込んでいたひとりだ。それが、初代神武天皇の「橿原建都の詔」を学び、「天の下にひとつの家のような世界を創ろう」という原義を知るに及んで、己が先入観と不勉強を恥じた。
拉致問題ひとつとっても、被害者を「自分の家族」として痛みを分かち合えるのなら何十年も見捨てたままになどできないであろう。この広大な理想の対象は日本国のみに留まらない。
先の大戦で渋谷健一特攻隊長は、幼い娘たちに「世界に平和がおとづれて万民太平の幸をうけるまで懸命の勉強することが大切なり」と書き遺している。われわれ日本人は他者を蹴落としてでも自分さえ勝てばいい、他国を踏み躙っても自国さえ繁栄すればいいといった考え方を良しとしない。日本人のDNAにはこの壮大な理念が埋め込まれているのではないか。 
だからこそ、欧米列強の強圧的な植民地支配とは対照的な、アジア太平洋諸国での統治が、先般の天皇、皇后両陛下のパラオご訪問でも示されたような現地の人々の熱烈な親日感情を育んだのであろう。
戦後70年の今こそ、日本人が自ら受け継ぐこの宝のような価値観を自覚し、そこに立ち返ることが、弱肉強食の世界を「強者が弱者を助け共に生きる世」へと導く鍵になるように思えてならない。
「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」とは、極論すれば「八紘為宇」という建国の理念を取り戻すことではあるまいか。
三原発言へのGHQ史観そのものの批判にはまず勉強をと言いたいが、保守層にこれを擁護する動きが希薄だったのも残念だ。議員の経歴を理由に同発言を軽視する輩には、そうした「色眼鏡」こそ戦後体制を延命させてきたことを肝に銘じてほしい。
posted by RBRA at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 広報部会長 葛城奈海