2011年03月25日

伊藤幹事の月いちコラム その9

一回くらいで涙を流すんじゃない

images0004.gif

 教育参考館とは、江田島の敷地内にあるギリシャ神殿風の建物であり、海軍創設以来の遺品、遺影、遺書が陳列してある。この建物は、他の建物と異なり、海軍兵学校の卒業生と一般有志からの寄付金で、昭和10年に建てられたものである。国家予算ではなく、先輩が私たち後輩の為に作ってくれた点も好きで何度も何度も通った。館内にはピーンと張りつめた全く別の空気が漂っている。幼児であろうと外国人であろうと、注意書きのあるなしに関わらず、どんなに悪意があったとしても、絶対に大きな声を出したり、ふざけたり、走ったりなどできない雰囲気がある。入口から中に入ると、2階に伸びる赤絨毯の敷かれた階段があり、上がりきった正面には東郷平八郎 元帥の遺髪が納められていた。その階段を上る前に10°の敬礼をするのだが、その“気をつけ”の時、私は自衛隊式(=米軍式)の、拳を握るスタイルではなく、従来の日本式である、掌(てのひら)を伸ばすスタイルで行っていた。先輩が私達のために作ってくれた建物の、先輩の遺品、遺書に会いに行くのに他国の礼式で敬意を表すことに抵抗感があった。もっとも、そこまで言うのであれば、常に、誰に何と言われようと、赤鬼・青鬼と拳を交えてでもその礼式を固守するべきであるが、それはできずに、教育参考館に入るときだけ掌を伸ばしていた。・・・・・・何ともばつの悪い話である。

 教育参考館には1000点を超す展示物があり、特殊潜行艇をはじめ遺書、手紙等も数多く展示してある。一般の入館者と違って見学時間に制限のない私は、すべての遺書、手紙を一通一通読むことができた。10代、20代の若者の「死」を決意して書いた文章はどれも達筆で美文であり、誰もが涙を抑えることができないものである。しかし、私はどの遺書にも何か窮屈なものを感じた。検閲とかが入るからなのか・・・・・・フォーマットがあったのか・・・・・・どれもこれも人生の最後に、最も近い者に宛てる文章ではない気がした。何かが足りない。抜けている。ばかに気になって何度も行って何回も読んだ。50回、60回、何回目だろうか、遺書を読んでいると、その文章に隠された暗号のようなものがあることに気づいた。同じ所で育った者でなければわからない、肉親でなければわからないであろう暗号のようなものがある。“行間に隠された”とかの表現になるのかもしれない。それは、肉親ではない私が何度読んでも見えてこないが、その存在だけは強く感じられた。手紙の宛先の、その人でないとわからないものがある。それは、その人に伝えたくて書かれたものだからで、俺はそんなものを読んでしまっていいのか・・・・・・とも思った。

 ふと、隣を見ると、観光客が涙を流して読んでいた。「1回位で涙なんか流して」。正直そう思ってしまった。当然その観光客にはなんの罪もない。むしろ、江田島に来て涙し、何かを考え思っている人である。なのに「その涙は何だ? かわいそうって思っているのか? 戦争はいけないとでも思っているのか? 1回位でわかったような顔して帰るんじゃない。帰って自分はわかったみたいに人に話すんじゃない」とも思ってしまった。今思えば、話をすればよかった。その観光客に自分が今何を感じているかを話してみるべきだったと思う。きっと理解してくれたんじゃないか、と強く反省している。

 そしてその時、その遺書を書いている先輩達が、あるものに絶対の自信を持っていることにも気付いた。それは、自分が今からやろうとしていることに対して国民が、社会が、国が、必ず応えてくれるであろうということであり、不安なんか微塵も感じない。まさか、ものの数年後、自分達が否定される事態が起こるなどとは、想像すらしていない。
「靖国で会おう」と出撃して行ったのに、首相が参拝すらしない国、「日本」。どう考えたって間違っている。

 自分は何をするべきなのだろう・・・・・・、先輩は何を守りたかったんだろう・・・・・・。少なくともこのままでは先輩に合わす顔がない・・・・・・。まあ、いろいろ考えるとわからなくなるけど、今はただの士官候補生なんだから、まずはまともな士官になるべきなのだろう。どうしても斜に構えたり、照れがあったり、心の中でバカバカしいと否定的になったりするけど。全力投球をしてみようと思った。

 その半年後、赤レンガを卒業し、戦闘艦で約1年の遠洋航海を終え実務配置に就いた。そしてその更に10年後、日本初の特殊部隊を創設するため、再び江田島で全身全霊全力投球をすることになる。
posted by RBRA at 09:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 幹事長 伊藤祐靖
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/48328559

この記事へのトラックバック